藍漆について
森工芸のものづくり
徳島の森工芸は1953年の創業以来、木を紙のように薄くスライスした木材『ツキ板』を「貼る」ことを専門に、化粧合板や建具、家具などの材料を製造してきました。
そして2020年より、長年培ってきた技術を活かしながら、自社オリジナルのプロダクトであるTRAYやSTAND、CLOCKなどの開発・製造をスタートさせ、“時代に合ったものづくり”に取り組んでいます。
なかでも、国内外から人気のPLATEについて、自然素材由来でありながら、美しさと耐久性を兼ね備えた新たな仕上げができないか…と模索した結果、『堤淺吉漆店』とのコラボレーションで新たに「藍漆」を生み出しました。 
新たな漆を求めて
「藍と漆を合わせて、新しいものを生み出すことができないか…。」
そう考えたのは、森工芸だけではなく、『堤淺吉漆店』の4代目として漆を次世代につなぐ活動にも注力する堤卓也氏も同じだった。
彼が四国、ひいては徳島の工芸に携わる人たちと交流を重ねるなかで徳島の伝統産業としても知られる藍に出会い、非常に純粋な探求心から藍漆の開発を始めたのは、コロナ禍と言われたタイミング。
公私で20年以上藍の研究を続けてきた『徳島県立農林水産総合技術支援センター』の吉原研究員(当時)を紹介してもらい、彼が開発した液体の沈殿藍を分けてもらってから「藍漆」の開発がスタートしました。

藍漆とは
「藍漆」とは、文字通り顔料である「藍」を掛け合わせて作られた「漆」。藍はその名の通り「藍色」を生み出す植物。漆は樹液でありながら固化すると非常に硬い塗膜を形成します。どちらも自然由来で、日本では古くから使われてきた素材です。
過去に藍を使った漆はなかったのか…と調べると、日本の伝統色に「青漆(せいしつ)」という色があることがわかります。しかしこの色は「深く渋い緑色」を指すそう。青漆は本来漆の色塗りの一種で、藍草から取り出した藍蝋などを加えた漆、または黒漆に黄漆を混ぜて作られる緑色を呈する漆のことなのだとか。*1 今、森工芸や堤さんが取り組んでいるのとは違う「色」と「方法」で、藍と漆を掛け合わせていたようです。時代と色は違えど、「藍と漆を合わせて何かを作りたい」という同じ想いに行きついたようにも思えます。
<引用>
*1 伝統色のいろは® https://irocore.com/

重ねた試行錯誤
探求心よりも好奇心が先立ったような形で始まった堤さんの藍漆の開発は、なかなか一筋縄にはいきませんでした。
はじめにサンプルとして提供してもらった粉末の沈殿藍でうまく作ることができた藍漆の配合ですが、沈殿藍は基本的に「液体」で販売されています。しかし、沈殿藍を液体のままで漆と練ったところ、乾かずに使えない…。液体のものを粉末状に乾かしてから漆と混ぜなければ「藍漆」はできないことがわかりました。漆と混ぜるのであれば「粉」であることが重要、ということに気づき、さまざまな人・場所から藍を手に入れ、多様な藍を、多様な方法で、漆と混ぜてみた堤さん。徳島の藍だけではなく、インド藍などでも藍漆を作り、完成度を上げてきました。しかし、手間暇と時間をかけて開発を進めるなかで、森工芸も堤さんも「やはり徳島の藍にこだわりたい」と、藍漆に使う沈殿藍は徳島産のものを使用することにこだわっています。
天然の木の樹液である漆は色としては茶色。そこに自然由来の藍色が合わさり、えもいわれぬ深みのある濃紺色に仕上がったのが堤さんの藍漆です。森工芸が藍漆のためのRAYS PLATEとRAYS TRAYに用意するツキイタは白木系でかつ木目が複雑で面白いホワイトシカモア。その木の個性を活かすためには深い色がいい、と色出しにもこだわっています。「漆も藍も自然のもの。深い色を出すようにしていますが、その“深み”や“色合い”はいつも同じ、というわけではありません。そこも天然素材の良さ、ととらえています。
漆と藍、日本を代表する伝統的な自然由来の素材を使って生み出した藍漆。そして、ローカルな伝統産業の代名詞ともいえる徳島の阿波藍で藍漆を作り上げ、森工芸の製品を表現すること。そこに大きな意味があると森工芸も堤さんも感じています。
堤さんは語ります。
「天然素材と人が向き合って新しいものができることが魅力だな、と改めて感じています。それに加えて、地域が誇る次世代に残していきたい伝統産業に目を向けつつ、天然の素材からものを創り出して色にする、という行為が大事ですね。今回、藍漆を作るために試行錯誤を重ねましたが、藍漆そのもの、というよりも、プロダクトでその魅力を表現したいです」
仕上げ方法の大切さ
森工芸のPLATEに使われている仕上げ方法は「拭き漆」。藍漆に使うのは「生漆(きうるし)」で、生成した漆ではないため刷毛塗はできません。そこで生漆を丁寧に「拭く」形で塗り込んでいきます。ただ、単純に漆を拭くだけではなく、目擦りという研磨や艶消しなど、細かなプロセスを経て完成されます。また漆についても藍漆だけでなく、工程によっては生漆だけであったり、別の配合の漆を重ねたり…と、ツキ板という木の良さを守りつつも「見せる」ための工夫が多くなされています。単純に「拭き漆」を施すだけでは、木目が全く見えなくなってしまうこともあり、非常に繊細な技術をもって漆仕上げのPLATEは完成されます。
なぜ藍漆なのか
紙のように薄くスライスした木である「ツキ板」。これを用いて作られる製品にどのような仕上げ塗装を選択するのかは、たいへん重要なポイントです。というのも、塗装でコーティングすることで実用性を担保する必要があるからです。
そこで、天然素材でありながら、うつわや食器をコーティングする塗料としても非常に高い性能を誇る漆は最も理想的な素材であると考えました。
また、森工芸という徳島のメーカーが、徳島で栽培・製造される天然藍を漆と掛け合わせた「藍漆」を創り出し、仕上げに使用することで、新しい木製品を誕生させることに価値と意義を感じています。
天然の素材を、天然の仕上げで。
藍漆のPLATEが、日本のみならず世界中の多くの方に愛されることを願っています。
●漆について

トップコートとして最も性能が高く、文化的価値の高い『漆』。
漆(うるし)は、漆の木から採取される樹液で、数千年にわたり日本の食器や工芸品などに使用されてきた、自然由来の素材です。
漆塗りは、その耐久性、耐水性、そして美しい光沢で知られ、古くから食器や家具、芸術品の仕上げに使われ、長い歴史を通じて磨かれてきました。
漆の使用は、約9000年前、つまり日本で言うと縄文時代にまで遡ります。その後、平安時代(8世紀末~12世紀末)には漆器が貴族社会で広く用いられるようになり、漆工芸は大きく発展。特に、室町時代(1336~1573)から江戸時代(1603~1868)にかけて、漆器は日常生活の中で広く使われるようになり、多様な技法が生み出されました。
漆は天然の樹液でありながら、固化すると非常に硬い塗膜を形成します。
この塗膜は、耐水性、耐熱性、さらには抗菌性を兼ね備えており、日々の使用においてもその美しさを長く保ちます。
直接食材を盛り付けることができ、水洗いも可能。日常のお手入れも簡単です。
また、時間とともに透け具合や色味が変わってゆく経年変化が漆仕上げの魅力の一つです。日々の使用や手入れを重ねることで、しっとりとした光沢と深みが増していきます。ウレタン塗料などでは表現できない漆ならではの特徴です。
●藍について

森工芸の地盤である徳島は、藍染料の日本一の産地。国選定保存技術に選定された「阿波藍製造」という伝統技術が今も受け継がれています。
阿波藍とは、徳島県で製造される藍染料=蒅(すくも)のことを差し、その技術と品質の高さから、18世紀には阿波の藍玉が全国の市場を独占するほど。今でも「藍師」と呼ばれる職人によって昔ながらの製法で蒅づくりが続けられています。
有名な「阿波おどり」も江戸時代に隆盛を極めた藍商人が徳島に伝えた諸国の芸能の影響を受けながら発展してきたものです。
徳島は「藍のふるさと」と言っても過言ではないほど、藍とのつながりが深い土地。
森工芸は、この藍を製品づくりに生かしたいと考え、以前から伝統的な蓼藍による藍染「発酵建て」で染め上げるTRAYやPLATEも製作しています。
そして、今回新たに、日本を代表する仕上げの「漆」と、徳島の代名詞ともいえる「藍」を掛け合わせた藍漆を生み出し、日本の歴史や伝統を感じられる新たな製品を誕生させました。
●藍漆とは

天然の素材を、天然の仕上げで。
「藍漆」とは、文字通り顔料である「藍」を掛け合わせて作られた「漆」。
森工芸と堤淺吉漆店のコラボレーションで、徳島で栽培・製造される藍を使った藍漆が誕生しました。
藍はその名の通り「藍色」を生み出す植物。漆は樹液でありながら固化すると非常に硬い塗膜を形成します。
天然藍の粉末と、同じく天然の生漆を混ぜ合わせて作る藍漆は、藍色と漆の茶色が合わさり、えもいわれぬ深みのある濃紺色に仕上がります。時と場合によって、その“深み”や“色合い”に違いが出るのも天然素材ならではの良さ。
ツキ板という木の良さを守りつつも「木目を見せる」ための工夫をこらし、非常に繊細な「拭き漆」の技術をもって、森工芸の漆仕上げの製品は一つひとつ完成します。



