縮み杢のホワイトアッシュと藍漆|奥湯河原 結唯のためのオーダー家具
神奈川県・奥湯河原の宿泊施設「奥湯河原 結唯」様の食事処に納める、オリジナルテーブルと椅子の製作に携わらせていただきました。

今回のプロジェクトは、既製品から家具を選ぶのではなく、その空間のために一から家具を考えるところから始まりました。
樹種、木目、ツキ板の構成、仕上げ、そして脚部のデザインと構造。
一つひとつの要素を検討しながら、森工芸のツキ板加工を起点に、家具設計、家具製作、藍漆、それぞれの専門技術を持つつくり手が協働して形にしたプロジェクトです。
空間のために、一からつくるテーブル
今回求められたのは、単に食事をするためのテーブルではなく、宿を訪れるお客様の記憶に残り、食事処の空間そのものを印象づける家具でした。
天板の素材として選ばれたのは、ホワイトアッシュ縮み杢。
素材について奥邑様とお話を重ねる中で、森工芸からご提案したのが、「縮み」と呼ばれる光沢が特徴的に現れたホワイトアッシュでした。

いくつもの樹種や仕上げを並べて選ぶというよりも、求められる空間の雰囲気や素材の方向性を伺いながら、森工芸としておすすめしたい木をご紹介し、その特徴をご覧いただく中で、自然と今回のホワイトアッシュを使用する方向へと決まっていきました。
通常は避けられる「縮み」を、あえて主役にする
木には、一つとして同じ表情のものはありません。
その中でも今回使用したホワイトアッシュには、木の繊維の揺らぎによって生まれる「縮み」が強く現れていました。
見る方向や光の当たり方によって、木目の中に光沢が浮かび上がり、表情が大きく変化します。
通常、ホワイトアッシュを材料として使用する際には、こうした縮みの強い部分は、均一性の観点から避けることがあります。
しかし今回、その特徴を欠点ではなく、この木にしかない個性として生かすことを考えました。
森工芸で保有していたホワイトアッシュの中でも、特に縮みの光沢が特徴的に現れている個体をご提案し、その表情を天板の意匠として取り入れています。
力強く流れるホワイトアッシュの木目と、その中に現れる独特の光沢。

見る位置や光によって表情を変えるその木の個性が、この空間のための家具を特徴づける要素の一つとなりました。
同じホワイトアッシュから生まれる、二つの表情
今回製作したテーブルでは、同じホワイトアッシュを起点としながら、異なる二つの表情をつくりました。
一つは、縮み杢を含むホワイトアッシュそのものの力強い木目と光沢を生かした仕上げ。
もう一つは、ホワイトアッシュに藍漆を施した仕上げです。
同じ木を使いながら、一方は素材そのものの色と光沢を生かし、もう一方は藍漆による深い色彩を重ねる。
異なる仕上げでありながら、木目という共通した要素を持つことで、同じ空間の中に自然なつながりが生まれました。
ホワイトアッシュに重ねる「藍漆」
藍漆のテーブルは、森工芸でツキ板加工と天板の木地製作を行った後、京都の堤淺吉漆店へと運び、仕上げを施していただきました。

「藍漆」とは、顔料である藍と漆を掛け合わせてつくられる漆です。
藍と漆という、日本で古くから用いられてきた二つの自然素材。その可能性に着目し、長年漆と向き合ってきた堤淺吉漆店が試行錯誤を重ねながら生み出してきた表現の一つが藍漆です。
今回、森工芸では、縮み杢という特徴を持つホワイトアッシュと藍漆を組み合わせることで、木が本来持っている表情と藍漆の色彩を、一つの天板の中で生かすことを考えました。
藍も漆も、そして木も自然から生まれた素材です。
そのため、工業製品のように完全に均一な色や表情になるものではありません。
木の個体差、縮み杢の光沢、藍の色、そして漆。

それぞれの素材が持つわずかな揺らぎが重なることで、一台ごとに異なる奥行きが生まれます。
力強いホワイトアッシュの木目に藍漆の深い濃紺が重なり、見る角度や光によって木目と色が浮かび上がる。
木を塗りつぶすのではなく、木の表情を残しながら、その上に藍漆の色彩と奥行きを重ねる。
今回のテーブルを象徴する仕上げの一つとなりました。
「Uの字に見える脚」を、家具として成立させる
今回、特に時間をかけて検討したのがテーブルの脚部です。
デザインに対するご要望の一つが、**「脚がUの字に見えるようにしたい」**というものでした。
求められていたのは、存在感のある天板を支えながらも、脚部はできるだけすっきりと見えるデザインです。
しかし、テーブルは造形物であると同時に、日々多くの方が使用する家具でもあります。
単純にU字型の形をつくるだけではなく、大きな天板を支える強度、横方向から加わる力への耐久性、接合方法、製作方法、搬入性、そして空間の中での見え方まで含めて考える必要がありました。
そこで、千葉設計社、椅子徳製作所、森工芸で検討を重ねました。
「Uの字に見える」という軽やかな印象をできるだけ損なわず、テーブルとして必要な構造的強度をどう確保するか。
「Uの字に見えること」
「空間の中ですっきりと見えること」
「長く安心して使える家具であること」
これらを同時に成立させることを目指し、脚部の形状と工法を具体化していきました。
さらに、完成した家具を現場へ搬入することや、将来的なメンテナンスも考慮し、現地で組み立て・分解ができる構造としています。

見た目にはシンプルに。
しかし、そのシンプルな形を成立させるために、見えない部分では構造、強度、製作方法について多くの検討が重ねられています。
今回の脚部は、デザイン、設計、製作、それぞれの視点が重なることで生まれました。
一社だけではつくれないものを、職人の連携でつくる
今回の家具は、森工芸だけで完成させたものではありません。
ツキ板加工、家具設計、家具製作、藍漆。
それぞれ異なる専門性を持つつくり手が、一つの空間、一つの家具のために技術と知識を持ち寄っています。
森工芸が担ったのは、得意とするツキ板加工と天板製作。
そして素材を見極め、その特徴をどう生かすかを考えながら、それぞれの専門技術と一つの家具の中でつないでいくことでした。
一社ですべてを完結させるのではなく、それぞれの分野で培われてきた知識や技術を持ち寄る。
今回の家具には、完成した姿からは見えない、多くのつくり手の仕事が重なっています。

家具が入り、空間が完成する

製作したテーブルと椅子が「奥湯河原 結唯」様の食事処へ納められ、家具は初めて本来あるべき空間の中に置かれました。
縮み杢を含んだホワイトアッシュの力強い木目と、光によって変化する光沢。
木の表情を残しながら、深い濃紺をまとった藍漆。
そして、存在感のある天板を支えながら、すっきりと「Uの字」に見えるようデザインされた脚部。
それぞれを単体で主張させるのではなく、空間の中で一つの景色となることを目指しました。
納品後には株式会社奥邑様より、
「お客様含め大変感動されており、より高級感のある食事処へとグレードが上がりました」
との大変嬉しいお言葉をいただきました。
家具をつくること自体が目的ではありません。
その家具が空間の中で使われ、人を迎え、そこで過ごす時間や体験の一部になっていく。
完成した家具がこの場所でこれからどのように使われ、時間とともにどのような表情へと変化していくのか。
私たちにとっても楽しみの一つです。
素材の個性を、価値に変える
今回使用したホワイトアッシュの「縮み」は、一般的な材料選定では避けられることもある特徴です。
しかし、見方を変えれば、それはその木にしかない表情でもあります。
均一であることだけを価値とするのではなく、一枚の木が持つ個性を見つけ、それをどのように生かすのかを考える。
そして、その素材に設計や木工、漆といった異なる技術が加わることで、木はまた新しい表情を見せます。
今回のプロジェクトは、通常であれば避けられるかもしれない木の特徴を起点に、その個性を空間の価値へとつないでいくものづくりでもありました。
天然木は、一つとして同じものがありません。
だからこそ、素材を均一に整えるだけではなく、その木が持っている特徴に目を向け、そこから何が生まれるのかを考える。
ツキ板と向き合う森工芸にとって、今回の仕事は、改めてその面白さと可能性を感じるプロジェクトとなりました。
PROJECT CREDIT
施設:奥湯河原 結唯
製作内容:オリジナルテーブル・椅子
樹種:ホワイトアッシュ縮み杢
特殊仕上げ:藍漆
設計:千葉設計社
ツキ板加工・天板製作:有限会社 森工芸
藍漆:堤淺吉漆店
家具製作:椅子徳製作所(イストク)





奥湯河原 結唯 様
