STORY

船大工の町と産地の分業

徳島市末広で、森工芸はツキ板を貼る仕事を続けてきました。薄く加工された木を選び、木目を組み合わせ、家具や建物に使う材料に仕立てる。こうした専門の仕事が成り立ってきた背景には、徳島に木工の産地があったことがあります。

では、なぜ徳島には木を扱う職人が集まり、鏡台や仏壇が盛んに作られるようになったのでしょうか。その歴史をたどると、海を渡る船と、城下町の東側に広がった職人の町に行き着きます。

水軍を支えた船大工の町

徳島市東部の「渭東(いとう)」は、木工の町として知られてきた地域です。蜂須賀家が1585年から阿波を治めるなかで、水軍の組織が整えられていきました。海に面する領地を支えるには、船を動かす人だけでなく、造り、修理する人も必要でした。[1]

徳島城博物館の解説によると、水軍の基地は当初、常三島の南東部にあり、1640年頃に福島東部へ移りました。現在の「安宅(あたけ)」という地名は、この水軍に由来します。その南側の大工島、現在の大和町には船大工の屋敷があり、江戸時代の絵図では55軒が確認されています。安宅や大和町という地名からも、船を造る仕事が暮らしのすぐそばにあったことがわかります。[2]

徳島の木工をたどる主な年代

年代 出来事
1640年頃 水軍基地が常三島から福島東部へ移る
1871年 廃藩を経て船大工の仕事が生活用品や家具づくりへ広がる
1885年頃 安宅周辺で鏡台製造が始まったとされる
1953年 森工芸創業 鏡台や仏壇にツキ板を貼る仕事
1973年 森工芸がホットプレス機を導入

資料 [2] [3] [5] をもとに構成。地域の産業史と森工芸の歩みを並べた年表です。

船から毎日の暮らしに使うものへ

産業団体の解説では、船大工が残材で生活道具を作ったことも、木工業の起こりとして紹介されています。やがて1871年の廃藩を経て、木の仕事は生活用品や家具、建具を作る仕事へと広がりました。藩の船を支えた技術が、新しい暮らしのなかで使い道を見つけていったのです。[3]

ただし、徳島の木工を「船大工が一斉に鏡台職人になった」という一つの出来事だけで説明することはできません。生活道具の製作、他の産地との交流、設備や材料の変化が重なり、長い時間をかけて産地が育っていきました。

鏡台と仏壇が育てた木を美しく仕上げる仕事

鏡台の製造が安宅周辺で始まったのは、1885年頃とされています。戦後の高度経済成長期には、鏡台をはじめとする婚礼家具が広まり、徳島の木工を支える主要な製品になりました。[3]

仏壇には、大阪との交流という別の流れもあります。明治中期には徳島で作った厨子を大阪へ送り、大正期には職人が大阪で唐木仏壇や唐木細工を学んだと伝えられています。昭和初期から戦後にかけて生産が発展し、徳島は唐木仏壇の大きな産地になりました。唐木仏壇は、木目を生かした仕上げも特徴の一つです。[4]

家具や仏壇を作るには、形を正確に組み立てるだけでは足りません。木目をそろえること、曲面を整えること、塗装で仕上げること。それぞれの工程に専門の技術が求められました。

森工芸が受け継いできた貼る仕事

森工芸の創業は1953年です。創業者の森政市は、組み上がった鏡台や仏壇にツキ板を貼る仕事をしていました。

当時の仕事を理解する鍵が、産地の分業です。形を作る「木地屋」、ツキ板を貼る「貼り屋」、仕上げを担う「塗装屋」。一つの製品を、異なる専門の仕事がつないでいました。森工芸は、そのなかで木を「貼る」技術を磨いてきました。

木地を作る → ツキ板を貼る → 塗装する

当時の代表的な分業のイメージ。製品や時代により工程は異なります。

組み立てたものに膠と小さなアイロンで貼る「後貼り」から、1973年のホットプレス機導入を経て、化粧合板の加工へ。作り方や設備は変わっても、木目を見極め、使う場所に合わせて仕立てる仕事は続いています。[5]

生活が変わると産地の仕事も変わる

婚礼家具の需要が大きかった時代から、暮らし方は変化しました。徳島市の産業資料も、生活様式の変化や輸入製品との競争による影響と、建築に付随する特注家具などへの転換を説明しています。[6]

いまの徳島には、家具や椅子、彫刻、遊山箱、建築のための材料など、それぞれの得意分野を持つ作り手がいます。森工芸も、家具や建具に使う化粧合板に加え、ツキ板の技術を生かした自社製品に取り組んでいます。[7]

私たちにとって徳島の木工の歴史は、昔の製品を振り返るためだけのものではありません。身につけた技術を、次に必要とされるものへどうつなぐか。その積み重ねのなかに、現在の仕事もあります。

家具の表面を見たとき、木目の選び方やつなぎ方にも目を向けてみてください。そこには、木地を作る人、ツキ板を貼る人、塗装する人の仕事が重なっています。森工芸は、そのなかの「貼る」仕事を担っています。

参考資料